「宇宙の仕事で生きるものはビジネスの世界でも生きる」宇宙飛行士・大西卓哉さんの“準備力”とは?
独占インタビュー! 元パイロットならでは。宇宙飛行士・大西卓哉さんの仕事術①
タスクの成否はタスクを始める段階で決まっている
それともうひとつ、訓練では本番より難しいレベルで作業をしていたのも大きかったです。例えば宇宙飛行士がロボットアームでUFOキャッチャーのように宇宙ステーションの近くにきた補給船(地上から大切な補給物資や実験装置が満載されている)をつかむ作業。これは基本的には1発で成功させなければならないタスクです。
訓練ではわざとこれを難しい状態、補給船がグラグラ漂っている状態でやります。実際にはキレイでピタッと静止していてくれるのですが、訓練中はそういう高難度モードでした。普段からそういう訓練をこなしていたので、本番の緊張に打ち勝てましたね。
これはパイロット時代の経験も踏まえて言いたいのですが、自分がそのタスクを上手くできるかどうかはそのタスクを始める段階でもう決まっている。そこまでの準備をしっかりやってきたかどうかで、その仕事が上手くいくかどうかが決まると思います。そういった心構えで準備をやることが大切です。
――なるほど。練習段階で本番以上の負荷をかける、スポーツの世界でも似たような話を聞いたことがあります。次に宇宙で行う様々な科学実験。ここでも手順書の読み込みなどの準備を入念に行っていたと伺いました。
科学実験の手順書は種類にもよりますが、直前まで地上の人たちは改良に改良を重ねようとしています。本当に確定したものが渡されるのはたいてい実験の2、3日前です。私はそれが渡されるとすぐ目を通し、「どこか効率化できる所はないか」と改善点を探して、それがあれば管制官にすぐフィードバックしていました。宇宙飛行士でもそれぞれやり方が違っていて、私のように渡されるとすぐ準備をするタイプもいれば、事前準備は無しで実験の当日に少し早く作業を始めるタイプもいます。後者はアメリカの宇宙飛行士に多い印象です。これはどちらがいい悪いではなく、仕事のやり方の好みによる所が大きいと思います。
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